先人の技の素晴らしさに魅せられ、着物コレクションを始めてしまいました。-
    3000枚の着物たちに託された思い、布の有る喜びをとどけます。

型紙と染め見本

何度も染替えて次代に受け継がれていく1枚の着物

重要文化財としての伊勢型紙と作家

 伊勢型紙は現在、流通している90パーセント以上が三重県鈴鹿市で生産されております。
 着物などの生地を一定の柄や紋様に染色するために使われる型紙の一つですが、着物ばなれから染色用だけでなく、他の工芸品や家具などに使用されることが多くなっています。
 今回、私は生地への染色用の型紙だけを念頭に置いてみました。
 柿渋によって張り合わされた美濃和紙を台紙とし、彫刻刀で図柄を彫る。台紙を重ねて彫るので1回で複数枚でき、彫刻刀の種類によって錐彫り、道具彫り、突彫り、縞彫りに分類されています。
 1955年(昭和30年)、文化財保護法に基づき工芸技術としての「伊勢型紙」が重要文化財に指定され、彫りの4種類や糸入れ作業などに1人ずつ6人の職人がいわゆる人間国宝として各個認定されました。
 先に展示した「人間国宝」展では錐彫り六谷梅軒、道具彫り中村勇二郎、突彫り南部芳松、縞彫り児玉博の四人の作品を展示しました。
 今では全員が亡くなり、伊勢型紙として1983年(昭和58年)には通産省の伝統的工芸品の指定を受け、1993年(平成5年)には伊勢型紙技術保存会が重要無形文化財「伊勢型紙」の保持団体に認定されています。

003-1_edited-1.jpg実際使われた伊勢型紙 昭和初期
 展示作品を見学された方で、伊勢型紙に大変興味があり、人間国宝中村勇二郎(道具彫り)の作品(着物)を買う時、先生にお会いでき「先生は「作品は飾りものではなく、できるだけ安くして多くの人に着てほしい」と言われ、私にも何とか買えたんですよ」と、お聞きしました。
029.JPG染め見本から作られた長襦袢など

 それに近いエピソードは、私にもあり、加賀小紋で二枚小地白(にまいこじしろ)染の坂口幸市先生が若いころ、人間国宝になられた中村先生に「是非、型紙を彫ってください」と、お願いに行ったとき「たのまれれば、いくらでも彫ってあげるけれど、年も違い長続きしないから、それより同じくらいの年のこれはと思える人を探しなさい」と言われ、探した人と、もう40年も一緒に仕事をされていて、自分でデザインして彫師さんに頼む程、型紙を大切にし、中村先生の言葉にとても感謝しておられます。
 現在、坂口さんはいずれ人間国宝と言われているお一人です。いずれも中村先生の暖かく、職人に徹するお人柄が感じられる言葉です。型彫師と染師この二人の「わざ」が融合して初めて人を感心させるものができると思いました。

031 のコピー.jpg染め見本の反物
039.JPG染め見本の反物が壁一面に

染め見本から好みの柄を見つける面白さ

 今から、10年近くになりますが、もっと前に廃業された染屋さんの持ち物をたくさん手に入れ、はじめて見る実際に使われていた型紙や染め見本の反物など、とても新鮮でした。
 1本の反物には20種ほどの柄があり、100本以上の反物の柄は、今でも全部見ていません。一つ一つの柄に使われる色の数だけ型紙の枚数が彫られているわけですから、今から思えば、その型紙を準備して、染め見本反物から期待通りの染替えをし、お客様にご満足いただくための染屋さんのご苦労は想像を絶することでした。
 1枚の着物が祖母から母へそして孫へと譲られ、染めなおされる。自家製の繭から織られた白生地を染める。そんな時、柄見本から好みの柄を選ぶ。そうして何度も染替えながら、次代に受け継がれてきた。これが今から50年以上前には最高の楽しみだったことでしょう。
 皆さんも、これは着物に、これは娘にと、その頃の様を垣間見ることのできる昔の染め見本の反物から、お好みの柄を見つけてみませんか。(型紙がそろってないので、実際には作れませんが、楽しいお遊びです。)