ギャラリー 布有喜に託した夢
樋口 冨喜子( higuchi fukiko/ギヤラリー 布有喜 代表 )
古布。使い込まれた布や着物の色合いと手触りに魅せられました。
古布から、先人の思いや生活を感じていただきたい、今まで以上の彩りでよみがえり、彩生(再生)していきたいとの想いから「布有喜」は始まりました。
私の幼少時代、高度成長期が始まった昭和30年頃でも、祖母は着物が普段着でした。弟も歩きだすまでは着物ばかり着ていました。お正月、お盆、祭りなど、着物を着た晴れ晴れとした思い出を懐かしく思います。そんな家族の着物は、祖母や母が蚕を飼い機織りをして手作りしていました。江戸時代のことかと思われそうですが、こんな生活も、たかだか50年前のことです。
原料の植物や生き物を育て、糸に紡ぎ反物を織り、着物に仕立て流通させる。着物が私たちに届くまでの工程を考えると気が遠くなりそうです。
親が子どもに、夫が妻に着物をあつらえる思い。仕立て上がりの着物に初めて手を通す喜び。それぞれの着物を着ていた時の出来事。作り始めてから私たちが袖を通すまでの間に様々なドラマがあるかと思うと粗末にできません。
今日も日本の津々浦々で、多くの古布が人知れず捨てられています。思い出が捨てられ、職人たちの技術が捨てられています。美しい色合いと手触りが捨てられています。消え行く古布が、何か語りかけてくるように思えてならないのです。
2008年から始まった展示も、故郷の岐阜県揖斐川町を中心に開催して、5年間で約40回を数えますが、縁あって、私の周りに集まってくれた着物、帯、小物たちのほんの一部を見ていただいたにすぎません。
これからもすべての物をタンスから出し、風を、光を、ときめきをもう一度感じさせてあげたい。ときめきを与えてくれる「もの言わぬ布たち」の持つメッセージを出来る限り伝えていかなければ申し訳なく思います。
まだまだ勉強中の身ではありますが、ご縁をつくり、ぜひ大勢の方にご高覧いただけるよう努力して参りますので、よろしくお願い申し上げます。